誰もが自分らしく生きられる社会をつくりたい。ITや分析を用いた独自の仕組みで障害者雇用を支援【ねやつーコラボ】

北大阪商工会議所×ねやつー

地区内における商工業の総合的な改善発展を図り、社会一般の福祉の増進に資することを目的としている商工会議所と、寝屋川の地域情報を日々発信している寝屋川つーしんのコラボ企画!

北大阪商工会議所。

一度は聞いたことがある人が多いとは思いますが、「一体何をしているのか?」「どんな企業が参加しているのか?」といったことまで知っている人となると数はぐっと減るのではないでしょうか。

少しでも身近に感じていただけたらと、北大阪商工会議所に入会されている企業を月に1度のペースでご紹介していきます!

過去のコラボ記事一覧


今回のNijiriguchiの主人公は、独自の障害者雇用支援を行う株式会社スタートラインのアカウントセールスディビジョン部長の湯川知彦氏(49)、本社クリエイティブ・ブランディング広報室広報リーダーの藤野祐輝氏(36)、枚方市に2021年にオープンした「IBUKI OSAKA HIRAKATA FARM」運営責任者の武藤杏奈氏(29)の三人。

左から湯川氏・藤野氏・武藤氏

同社は2009年に東京で創業。”自分をおもいやり、人をおもいやり、その先をおもいやる“を理念に、障害者雇用支援に関する総合コンサルティングサービスを行う。

障害者の雇用は、従業員が一定数以上の企業に対し、法定雇用率(2022年8月現在2.3%)以上の割合となるよう義務付けられているが、ノウハウがないなどの理由でうまく進んでいない企業も少なくない。

障害者を雇用する企業と、働く障害者、双方の悩みを解決したい、そんな思いから始まった。

具体的にはサテライトオフィスサービスや、屋内農園を活用した障害者雇用支援サービス「IBUKI」(いぶき)、珈琲ロースタリーを活用した障害者雇用支援サービス「BYSN」(ばいせん)、就労移行支援「るりはり」など、独自の障害者雇用支援の仕組みを東京や大阪などで展開している。

「IBUKI」栽培室

創立からわずか14年目にして従業員数290名、一つ一つ実績を積み重ねてきた同社の障害者雇用支援とはどういったものなのか、話を聞いた。

通勤の苦労をなくす、ハード面でのサポート

スタートラインが最初に始めた事業が、「サテライトオフィスサービス」だ。創業した2009年当時は、身体障害者の雇用が中心だったそうだ。

身体に障害がある人が働く上で一番の課題は、「通勤」だった。東京の都心部まで車椅子や白杖などを使って働きに出るのは非常に負担が大きい。満員電車でもみくちゃになりながら1時間ほどかけて通勤する姿を見て、何か仕組みで解決できないか…と思ったことがきっかけとなり始まったのがこのサービスだ。

オフィスを設けたのは、東京の都心ではなくベッドタウンである八王子。障害者のための大きなサテライトオフィスを作った。今は普及したテレワークの形を障害者の働き方に取り入れた。

「仕事があるところに働きに出るのではなく、人がいるところに仕事を持っていく」。そうすることによって障害者の通勤の負担が少なくなり、能力を発揮しやすくなるのではないかという発想だ。

サテライトオフィスには、スタートラインの社員も常駐しており、障害者を雇用する企業ごとにブースが設けられている。障害者には雇用主の企業から業務指示が出されるが、働く上での困りごとや体調などの相談はスタートラインの社員が受け、雇用主の人事担当者に課題や解決策を提案する。つまり業務以外でのソフト面のサポートもしているのだ。

精神障害者の雇用の増加
定着率49.3%の壁

障害者の雇用をめぐる状況は次第に変化していく。

創業から4年が経過した2013年頃、働きたい障害者の内訳を見ると、身体障害者よりも精神障害者が多くなったのだ。

身体障害者の雇用を念頭に進めたバリアフリー化やサテライトオフィスといったハード面の整備だけでは、精神障害者が働く上での課題がクリアできないことに直面したという。

障害者の雇用において、「採用」「業務内容」「定着」の3つの課題があると言われているが、とりわけ「定着」に大きな課題があるそうだ。

精神障害者の1年以上の職場定着率は49.3%。実に2人に1人が1年以内で退職をしているというのが実態だ。しかし、2013年当時、精神障害者に対する雇用支援については、まだ体系的に整っていなかったそうだ。

このため、スタートラインでは、2014年に研究所を設立し、日本のみならず、海外の先行事例や学会発表の論文などから、どのような支援が必要なのか研究を重ねた。その知見を社員研修で共有し、OJTができる体制を整えていった。

新たに考案された「IBUKI」

働きたい精神障害者の増加を受けて2017年に始めた新たな支援サービスが、屋内農園型障害者雇用支援サービス「IBUKI」だ。

実は、AIや働き方改革などにより、企業としてオフィスワークの場を創出することが難しくなってきたことも背景にあるという。

このサービスは、屋内に設置した農園でハーブを育て、ハーブティーを仕上げるといったモデル。ハーブティーは、雇用元の企業の社員がハーブティーを楽しんだり、ハーブソルト、ハーブバスなど様々な成果物に加工され、その企業の従業員や、クライアントにプレゼントされるなど様々に活用される。

ハーブティーなどのノベルティ

オフィスワークは苦手だが手先を使うことが得意な人、知的障害者、精神・発達障害者を中心にファームで活躍している。

「IBUKI」では、ただハーブを育ててハーブティーを作るだけでなく、本社の方と一緒に新たなハーブブレンドを考案したり、より難易度の高い業務にチャレンジするなど、障害者の能力開発や、キャリア支援まで行っている。

これまでに東京や大阪など19か所でオープンしている「IBUKI」。2021年にオープンした枚方市のファームの運営責任者を務める武藤氏が、その仕組みを教えてくれた。

スタートラインと契約した企業ごとに栽培室が設けられ、企業が雇用する管理者1名と障害者3名程度が共に作業を進める。管理者は主に障害者の体調管理や勤怠管理を行う。

精神障害者の精神的な体調変化への対応などは専門知識が必要となるため、常駐しているスタートラインの社員が管理者の相談に乗り、必要に応じて対応方法を提案していく。

さらに、地域にある障害者の支援機関をはじめ、場合によっては医療機関とも連携をとる。働く場所だけを見るのではなく、日常生活も意識したサポートを行っているという。

「IBUKI」を活用することは、ただ雇用率を達成するだけではなく、SDGsやESG投資、CSR、ダイバーシティなどの、社会からの要請にも応える取り組みとしても注目されている。

枚方市の「IBUKI」は、実はまだ地元企業との関わりは無いそうだ。「企業と障害のある方、双方のお困りごとの手助けをしたい」という想いに当商工会議所も賛同し、支援にあたっている。

スタートラインが誇る支援技術

スタートラインが提供する職場で働いている障害者の入社1年後の定着率は、なんと80%を超えているそうだ。前述した「49.3%の壁」をはるかに乗り越えた秘訣について、関西事業所で部長を務める湯川氏は、こう話す。

「弊社の強みは、研究所を起点に大学や研究機関、国内外の学会などと連携し、先進の支援技術を取り入れ、サービスを運営する拠点の現場社員へ教育を行い、障害者雇用の現場で実践し、事例がデータベース化されていくことで、支援技術がブラッシュアップされ新たな支援技術やツールが開発されるサイクルがあることです」

福祉業界はあまりIT化が進んでいないというイメージがあるが、同社では、デジタル技術を積極的に活用しているのが特徴だ。独自のシステム開発や支援事例のデータベース化などだ。

鬱状態になる前には日常生活の中でちょっとした変化があるそうだ。同社では、このようなサインを発見するためのシステムを独自で開発し、働く障害者に日々システムに入力してもらい、落ち込む予兆をいち早くキャッチアップして対処し、予防に繋げていく。

しかし、実際に大きく落ち込んでしまった時には、サポーターが同社の研究所と連携して支援にあたる。研究所では、専門的な応用行動分析を用いたサポートの提案ができる。こうした強力なサポートにより、精神的に大きく落ち込んでしまった方が無事回復し、勤務を継続できた事例もあるそうだ。

誰もが活躍できる社会を目指して

スタートラインは、日々230社以上、1430名以上の障害者の職場定着支援を行っている。本社で広報リーダーを務める藤野氏は、障害者雇用において大事なことは、“企業、障害者福祉、私たち、それぞれが協力して、共生社会を一緒に創っていこうとどれだけ本気で思えるか”だと強調する。

同社では、障害者雇用が進んでいない企業向けに、精神障害や発達障害への適切な理解、働く上で必要な配慮などについて研修も行っていて、こうしたニーズも増えているそうだ。

そして、法定雇用率の課題があるから障害者雇用をしたいというよりも、『ダイバーシティ=人材の多様性の観点から、企業の中で様々な人が活躍できるようにしたい』と考える企業が多くなってきたと実感しているという。

「スタートラインは創業から約14年、障害者雇用支援という領域で事業を行ってきたが、障害があるなしに関わらず、当社の支援ノウハウが役立つということがわかってきた。誰もが抱える心の不安や悩みに何か関われないかと考え始めている」と話す。

“自分をおもいやり、人をおもいやり、その先をおもいやる”というのが弊社の理念。弊社では『おもいやり』についても“可能性を見つけ出す観察力、未来を描く想像力、形にする行動力、可能性を可能に変えていく技術力、そして関わる責任”と定義している。おもいやり=優しさではない。だからこそ誰もが自分らしく生きる社会をつくりたい」

これからも時代とともに進化していく株式会社スタートラインから目が離
せない。

株式会社スタートライン
【IBUKI OSAKA HIRAKATA FARM】

〒573-0102
大阪府枚方市長尾家具町3-11-1
TEL:072-300-2639
株式会社スタートライン公式サイト

■関連リンク
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